自分の考えってなんだろう - 個性、または自己同一性について

僕はお粗末ながら自分の考えをいろいろ言う。
自分の考えとはいっても、誰かが先に言った、どこかで読み聞いたことにもとづいている。
だから自分の考えには、すべてを自分が思いついた、独自のものはない。
かといって、自分の考えは、それを先に言った人のものかというと、そうではないはず。
なぜなら自分の考えは、誰かが言ったことの中から、自分の体験や、自分が存在している「今、ここ」の状況をかんがみて、もっとも有益なものを選び出し、再構成したものだから。
自分と同じ体験をした人はいないし、自分と同じ「今、ここ」に存在する人もいない。
それが自分を自分たらしめているのであって、それを言った誰かとは時間的にも、空間的にも、状況的にも異なる。
だからこそ自分の存在は、個性のみなもとなのだ。
僕とは大違いで、大西さんには多くの人に好かれた、かがやく「自分の音楽」があるはずなのに、なんてもったいない!

ニュースを読んで、そう思った。

こういうニュースは、記事がすぐ消えるので、引用しておこう。

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20120828-00000031-natalien-musi

ジャズピアニスト大西順子が引退発表「研究者でいたい」
ナタリー 8月28日(火)16時26分配信

ジャズピアニストの大西順子が、この秋に行われる国内ツアーをもってプロ演奏家としての活動を引退することが明らかになった。

大西は自身のサイトで、昨年家族の不幸があったことをきっかけに活動を自粛してきたこと、その期間中に「自分の音楽」について考えていたことを告白。そして深い熟考の結果、「自分のための演奏は出来ても、オーディエンスを満足させるパフォーマー、クリエーターにはなれない、むしろ研究者でいたい」という結論に至り、引退することを決意した。今後は形は未定ながら、自身の経験を生かし、次世代を担う音楽家たちのサポートに回る。

なお彼女のプロ演奏家として最後のツアーは、10月22日の福岡・NEW COMBOからスタート。11月4日に静岡・アクトシティ浜松大ホールで行われる「第21回 ハママツ・ジャズ・ウィーク ヤマハ ジャズ フェスティバル」を含め、17ステージを予定している。

(中略:コンサートの詳しい宣伝)

大西順子コメント

皆さんこんにちは、大西順子です。
いつも応援ありがとうございます。
この場で発表させて頂くご報告があります。
私は昨年家族の不幸がありそれ以来活動を自粛してきました。この期間に自分の音楽、また今後の音楽活動の展望について深く考える時間を得る事が出来ました。
もともと、17歳でジャズという音楽に初めて触れ、それ以来ジャズの巨人達の足跡をたどり、自分なりの解釈で作品を作ったり、ライブ、コンサートという活動の場を頂き幸運にもそれをお仕事にさせて頂いてくる事が出来ました。がしかし、それらで私が発表してきたものは果たして「自分の音楽」と呼べるものだったのでしょうか?
結局既に存在するものを自分というフィルターを通して焼き直すだけだったようにも思われます。
時として、それはオリジナルを台無しにすることも多々あったんではないでしょうか。要は自分のための勉強、もっと言えば、自分の為だけに、というエゴをそのまま仕事にさせて頂くという本来ショービジネスにはあってはならないことを生業にしてきたと今痛感しています。
90年代、まだネットが十分に発達していなかった時代に私は個の声を発表する場がない中でチャンスを頂いた一人です。力足らずでのデビューだったことは否めません。それでも皆さんの応援に支えられもう一度より深くこの音楽を勉強したいと強く思い、しばらく活動をおさえ勉強に励みました。
再び全く新しい時代に再び活動を始め、以前より楽器の扱いやハーモニー、フレーズ、リズム、などをより多角的に勉強し、ある程度自分の中では達成感を得、またそれを前作「バロック」で昇華させるチャンスを頂き、その出来具合には個人的に大変満足することができました。また、先述の通り、クリエーターの作品というより、研究作品といった私の一連の作品がこれまで皆様に一定のご評価を頂いてきたことを大変光栄に思っております。一ミュージシャンとして至福の想いです。
ですがその一方、舞台上ではプロであるべきではない、ということを体感する出来事が多々ありました。
そして私には自分のための演奏は出来ても、オーディエンスを満足させるパフォーマー、クリエーターにはなれない、むしろ研究者でいたいという結論に至りました。
10月22日からスタートする国内ツアーでプロ演奏家としての活動から引退します。最後に私なりに追求してきた音楽を、皆さんと分かち合えれば幸いです。また最後を締めくくるのが私を育ててくれたライブハウスという特別な空間であることを幸せに思います。
今後はまだ未定ですが、もし私が幸運にも関わることが出来た巨人達からほんの少しですが学べたこと、今までのプロ活動から経験できたこと、そして私なりの音楽観、ピアノという楽器への向かい方、身体の使い方、アンサンブルに関して、またそれらを学ぶにあたって知っておくべき他分野の芸術、芸能、スポーツ、そういったものに興味を持つ次世代を担う音楽家の手助けになれればと思っています。
ピアニスト大西順子を応援して頂いた皆様、これまでのご支援を心より 感謝します。
ありがとうございました。